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更新日:2019年3月29日
旅の途中にはさまざまな風景が目の前に広がっている。突然の風景の変化に驚くこともある。しかし、新鮮に思えた風景は、ものの数分もすればたちどころに見慣れたものになってしまう。時間とともに移り変わる風景の変化に驚き続けることは極めて難しい。しかし、仮に驚き続けることを技術として習得することができれば、どんな場所を旅しても暇を持て余すことはないだろうし、スマートフォンで見どころを検索しながら訪れる旅よりも、百万倍も有意義な旅になるはずだ。
小林敦子さんとの県北の旅で教わったのは、まさにそういうことだった。眼前の風景をひとつひとつの記号に分解していくと、いままで見えていなかったものが見えてくる。なんてことない佇まいの商店、田んぼに打ち捨てられた野立て看板、通りすがりの祠。“彼ら”は、単体でひとつの記事になることは難しいけれど、なんらかのかたちでいつか“言葉になる”ことを待っている。
「ケンポク切絵探訪記」の連載は終了したが、全6回に掲載しきれなかったもの、とくに、県北のそこかしこに散見される「文字」に着目して、小林さんに絵を書いてもらった。もちろん、文字ひとつひとつに隠された意味はない。でも、意味はないのに、間違いなく記憶に残っている。つまり、ただの文字ではなく、それらもまた、この土地の物語の、重要な脇役なのだ。
小林敦子さんに描いてもらった切絵。実際に見たり、写真で見ても面白いのに、切絵になることで、物語に奥行きが生まれる。
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今回は番外編として、上に描いてもらった絵の実際の写真に、小林さんにひとつずつコメントを寄せてもらいました。みなさんも、地元にあるこんな文字を探してみてください。単なる記号でしかなかった文字が、見慣れた風景への新しい眼差しを与えてくれるかもしれません。
「くれしぇんど」 この文字のやさしい丸みも、お店の安心感をつくるのに一役買っている気がする。 |
連載第2回の「ファミリーレストラン」でも取り上げた、「くれしぇんど」。その箸袋に描かれた文字に小林さんは猛烈に心を惹かれていた。
「ドラゴンふるーつ」 山間の風景が続くなか、突如として現れた「ドラゴンふるーつ」の看板。「ドラゴンフルーツ!? こんなところで!?」と衝撃を受けたけれど、看板の絵はりんごだし、後から考えてみるとドラゴンという名前のふるーつ屋さんかもしれないと思った。それにしても良い文字! |
何度も見ている気がするが、初めてみたような気持ちになったこの看板。小林さんは「ふるーつ屋さんかもしれない」と書いているが、きっとりんご園なんじゃないか。いずれにしても検索して出てこないので、今度訪ねてみたい。
「十王ダム」 植木でかかれた巨大な太文字が放射状に広がってドン!と配置されていて、戦隊モノのタイトルのようで景気が良い。 |
「十王ダム」の代わりに「ガンダム」と書いてあっても、この風景は成り立つような気がする。
絵・小林敦子(外部サイトへリンク)
編集/文/写真・中岡祐介(三輪舎(外部サイトへリンク))
小林 敦子(こばやしあつこ) 1989年岡山生まれ。筑波大学芸術専門学群美術専攻特別カリキュラム版画卒業。2014年よりフリーのイラストレーターとして活動。切り絵や水彩で身近なモチーフを描く。料理と植物とDIY好き。ktasybc.tumblr.com(外部サイトへリンク) |
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