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更新日:2018年3月30日
かつて岡倉天心が「東洋のバルビゾン」と称し、日本美術を世界へ発信した五浦の海。2018年3月、この地で新しい芸術祭がはじまりました。
前編では、茨城県天心記念五浦美術館と茨城大学五浦美術文化研究所(六角堂・天心邸)の様子をお届けしました。 引き続き、後編をお楽しみください。
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六角堂のある茨城大学五浦美術文化研究所をあとにし、五浦観光ホテル本館へと歩いて向かいます。
「五浦観光ホテル本館」は昭和11年創業された老舗ホテル。客室からは五浦の海の景色が一望でき、数寄屋風に造られた庭園露天風呂では滝の音や波の音を聞きながらお湯を楽しむことができます。この地で80年、五浦の絶景とその物語を旅人へと伝え続けているのでしょう。
茨城大学の学生による五浦コンシェルジュのオリジナル紹介ボード。
今回の芸術祭期間中は、1階ロビーにて陶芸と根付彫刻の作品展示と販売が行われていました。
五浦天心焼研究会に所属する7名の陶芸家の作品たち
秋元郁子さん/あんこうウエイト
北茨城市で活動されている根付彫刻家・鈴木鈴さん(左)
北茨城市で活動されている陶芸家・會田恵美さん
このキュートな犬やカエルの作品は、陶芸家の會田恵美さんによって生み出されたもの。會田さんはもともと器を作っていたそうですが、震災後から生き物をモチーフにした作品作りに転向。まっすぐな瞳でこちらを見つめる愛くるしさは「ホッとするな。がんばる力がわいてくるな。人の心にそっと寄り添うようなものを作りたい」との想いが込められているからでした。
スタンプが3つ集まったぞ!ということで、山側エリアに移動する前に、スタンプラリーのゴール地点である大津港駅前観光案内所に立ち寄りました。
今は使われていないという旧観光案内所を、芸術祭の期間限定で開放。風化の進む姿がまた、趣を生み出しています。インフォメーションとして、ふたたびマチとヒトを結ぶ役割を担い、建物もうれしそうでした。
中では公式グッズやお土産の販売や、富士ケ丘ラボラトリーのイメージキャラクター・ファボちゃんの旗、これまでに地域の人と作ってきたというガーランドが飾られていました。「ようこそ!」「おかえり!」と言われているような気持ちになったのは私だけでしょうか?
スタンプラリーの景品は、北茨城おみやげです!富士ケ丘ファボラトリーのファボちゃんバック、五浦天心焼、平潟銘菓てんごころのフィナンシェやアンコウのお菓子などが用意されていました。
なんとここでスタッフさんから素敵な情報を入手!この海のような輝きが美しいスタンプは、会場にもなっているガラス工房シリカさんで制作されたとのこと。そこまでは気づかなかった…感性を磨かねば。
最後に向かったのは、山側『揚枝方(ようじかた)エリア』にあるARIGATEE(ありがてえ)です。
大津港駅からARIGATEEへと車を走らせていると、突然『期待場』の文字が!ここは本ウェブサイトでもご紹介しておりますシェアオフィス「旧富士ケ丘小学校」(外部サイトへリンク)です。廃校となった小学校の1階を芸術家専用のオフィスとして整備しており、現在入居者を募集中です。これからの動きに目が離せません。
うっすらとピンク色に染まる山が美しく、ついついゆっくり運転に。終了時間ギリギリにARIGATEEに到着です。
【旧有賀邸であることと、関わる皆さんすべてが「ありがてえ」という気持ちになる家を目指して名付けられた屋号。】
ここは2018年春にオープン予定の、滞在制作が可能なギャラリー&アトリエです。2017年春に、芸術家の石渡のりおさん・ちふみさんご夫妻が地域おこし協力隊として移住されたことをきっかけに、築150年の古民家を作品としてギャラリーに再生する「古民家改修アートプロジェクト」が10月からスタート。おふたりは、身の回りにある材料を活かして、日常の中にアートを表現する試みをされており、今回はここで「生きるための道具展」を行っていました。
石渡のりおさんは、本ウェブサイトにて連載の執筆もされています。
古民家に入ってすぐの土間には、動物の立体作品が。
キッチンはこの家にあったものを組み合わせて、床は無償で提供してもらった廃棄材木でつくったそう。
地元住民から集めた唐箕や手押しの除草機、おけ、ざるなど、農業や山仕事で使われてきた道具をアート風に展示。
凛と佇むかき氷機に、目を奪われた。
この家に保管されていたという書物やポスター、新聞などがコラージュされている。
セーターを座布団にリメイク。
ひとつひとつが異彩を放ちながらも、それらがケンカすることなく、あたたかくてまあるい空間がつくられていました。
展示されていた古い道具を見て、周りから「懐かしい~!」との声も聞こえてきましたが、私はこれまでに見たことのない道具たちの姿に興味津々。何のための道具なのか、どういう風に使うのか、今のものに例えると何なのか、それらを知るたびに「ありがてえ、ありがてえ」と手を合わせたくなりました。と同時に、これらが使われていた頃の暮らしや、手入れをしながらモノの命をつないでいく人々の姿がぼんやり浮かんできたのでした。
残念ながらここでタイムアップ。予定では7会場すべてを周るつもりでいたのですが、かつらぎ画廊(カフェミュゼ)とガラス工房シリカにはまた改めてお邪魔させていただくことにし、北茨城をあとにしました。
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帰り道、車のフロントガラス越しに風景を見ていると、不思議な気持ちが湧きあがってきました。今までは“あたりまえ”なものとして通り過ぎてしまっていた、民家や商店、看板など、そのひとつひとつが、想いの集合体に見えてきたのです。その後ろには目には見えない、小さくも果てしない物語が隠れている。今回の芸術祭でアーティストの皆さんは、そんな世界をわたしたちに開いて見せてくれたんだと思いました。
来年もまた、この桃源郷へたどり着けますように。
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